駆除ベイト工法「ブリングシステム」について

廣瀬産業株式会社

1.はじめに

写真01 白蟻飼育室外観  ブリングシステムは、住友化学(株)、有恒薬品工業(株)、廣瀬産業(株)、その他多くの関連会社の協力を得て開発された『イエシロアリ駆除専用』のベイト工法です。イエシロアリの生息に必要な水を利用した駆除方法で、短い期間でイエシロアリの巣が崩壊します。
これからブリングシステムの開発、商品概要、施工事例を紹介します。

2.ブリングシステムの開発

ブリングシステムは、イエシロアリの被害家屋で、イエシロアリの巣を短い期間で確実に駆除することを目的に開発しました。
イエシロアリの生態を探求し、次の3要素を実現することができました。
 @白蟻を大量に集める。
 Aベイト剤を大量に喫食させる。
 B巣を早く崩壊させる。
ブリングベイト開発の基礎となったイエシロアリの水取量計測について紹介します。

 2−1.イエシロアリの水取量計測

表1 計測データ
巣番号計測日数補給水量週給水量推定白蟻匹数
巣177日18300cc1660cc/週90万匹
巣277日 7100cc 650cc/週 
巣477日11400cc1040cc/週60万匹
巣577日13750cc1250cc/週 
巣677日 6100cc 550cc/週 
巣777日 5850cc 530cc/週 
巣877日 6650cc 600cc/週30万匹
巣977日 2350cc 210cc/週 
 イエシロアリは水を運搬し、巣への給水、蟻土蟻道の構築、加害木材の加水等に利用します。しかし、その運搬の量は測定されず、明らかになっていませんでした。弊社はコンパクトな白蟻水取装置(図1)を作成し、平成14年11月から77日間、イエシロアリのコロニー8個について水運搬摂取量の計測を行いました。巣の大きさで水取量は変りますが、小さな巣で2.4L、大きな巣で18.3Lの水量が計測されました。
測量結果を元に、1週間あたりの給水量を計算すると、表1のようになります。表中の推定白蟻匹数は、コロニーの大きさから白蟻のおおよその数を予想しました。
図01 水取装置構造

 2−2.実験結果

写真02 水取装置を往復する白蟻 巣の大きさからシロアリの数を概算し、1匹当たりの取水量を推定計算すると、2mg/匹・週となります。
この値はイエシロアリ職蟻体重の2/3にあたり、イエシロアリが水を大量に運搬摂取していることがわかりました。(写真2)白蟻の餌食害量は0.8mg/匹・週(山野勝次 イエシロアリの加害習性および物理的防除に関する研究)であり、木材などの餌材より水を大量に運搬摂取することがわかりました。

表2 計測結果
1週間に白蟻1匹が運ぶ水の量2mg/匹・週
1週間に白蟻1匹が食べる餌の量0.8mg/匹・週
白蟻1匹の体重3mg

3.ブリングシステムの解説

 イエシロアリは西日本に生息し、家屋に過大な被害を与えます。10万匹から100万匹の集団で活動しています。イエシロアリの生息には水が重要で、水が無いと2週間で死滅します。そのため、常に水取場を確保し、水を運搬摂取しています。この習性を利用し、イエシロアリの被害部に新しい水取場(ブリングボックス)を設置し、白蟻を大量に集めます。集まった白蟻に、水を多く含んだブリングベイト(毒餌)を大量に食べさせることで、短期間(40日から60日)で巣を壊滅することが可能になりました。※施工は4月末から9月末を目安に行ってください。気温が低くなると施工期間が長くなります。

4.ブリングシステムの構成

 ブリングシステムはブリングボックスとブリングベイトで構成されています。イエシロアリが活動する場所にブリングボックスを設置し、ブリングベイト(毒餌)を投与することでイエシロアリの巣を崩壊させます。

 4−1ブリングボックス

写真03 ブリングボックス  ブリングボックス(写真3)はイエシロアリが好む蒸煮材のボックスと断熱蓋で構成されています。蒸煮材に誘導部を設けてあり、イエシロアリを短時間でボックス内に誘導します。ベイト素材、ボックス構造の相乗効果で大量のイエシロアリを集め、短期間に大量のベイト剤を与えることができます。

表3 ボックス寸法
ボックス全体寸法295×375×54mm
蒸煮材ボックス250×330×38mm
断 熱 蓋295×375×16mm

 4−2ブリングベイト

写真04 ブリングベイト外箱  ブリングベイト(写真4)は、白色固型コイン状のブリングベイトA剤(写真5)と薄褐色粉末のブリングベイトB剤(写真6)の2種類で構成されています。A剤、B剤にはイエシロアリが好む蒸煮材の粉末が添加してあり、A剤にB剤と水を掛けることで、優れた誘引性、喫食性を実現します。
ブリングベイトは特殊な剤形により、ベイト表面に水を掛けるだけで、ベイト400gに対して、水600gから700gを含有します。蒸煮材粉末と高含水性の組み合わせで、優れた喫食性を実現します。

写真05 ブリングベイトA剤

A)ブリングベイトA剤(写真5)

形状:白色固型コイン状(直径20×厚さ3.2mm)

容量:160g×3袋

成分:ビストリフルロン、蒸煮材粉末、増量剤

写真06 ブリングベイトB剤

B)ブリングベイトB剤(写真6)

形状:薄褐色粉末

容量:40g×3袋

成分:ビストリフルロン、蒸煮材粉末、増量剤

 4−3蒸煮材・蒸煮材粉末

 唐松を高圧高温の蒸気で長時間蒸した蒸煮材は、イエシロアリが好んで食害します。ブリングボックス、ブリングベイトには、この特別に加工した蒸煮材、蒸煮剤の粉末を使用しています。イエシロアリが好む蒸煮材、蒸煮材粉末を使用することで、イエシロアリの誘導性、喫食性が高まります。

5.有効成分:ビストリフルロン

 ブリングベイトには、住友化学グループが白蟻への有効性を確認したベンゾイルフェニルウレア系脱皮阻害剤「ビストリフルロン」が含まれています。ビストリフルロンは、他の脱皮阻害剤と違い、濃度依存性が高いことが、住友化学(株)久保田俊一により確認されています。ビストリフルロンを含有したろ紙をシロアリに食べさせると、ビストリフルロンの濃度が高いほど、シロアリの死に要する日数は短くなります。
濃度依存性の高いビストリフルロンと喫食性の高いブリングベイト素材を組み合わせることで高い効果が期待できます。ビストリフルロンの性状は次の通りです。
1)一般名:ビストリフルロン
2)化学構造式:
図2 化学構造式
3)物性(原体) 
外観白色粉末
水への溶解度難溶

4)急性毒性(原体)
急性経口毒性ラット♀♂LD50値>5,000mg/kg
急性経皮毒性ラット♀♂LD50値>2,000mg/kg
 コ イLC50(48hr)>0.5mg/リットル

6.ブリングシステムによる駆除の流れ

図2 ブリングシステムの流れ

A)白蟻被害調査

 イエシロアリの被害家屋について被害調査を行い、シロアリの動きが活発な場所を1、2箇所見つけてください。
写真7 ボックス設置、ベイト投与 写真8 床下設置状況

B)ボックス設置・ベイト剤投与

 ボックスに水を掛け濡らします。シロアリの活発な蟻道を一部除去し、ボックス誘導部が蟻道に密着するようにボックスを設置します。ブリングベイトA剤、B剤を投与し、水をたっぷり掛けます(写真7)。断熱蓋をかぶせて、重しのブロックを置きます。(写真8) 写真9 ブリングベイト点検補充

C)14日目点検補充(写真9

 ベイト剤の食害状況を確認し、必要に応じてベイト剤を追加します。

D)28日目点検補充

 ベイト剤の食害状況とシロアリの衰弱状況を確認し、必要に応じてベイト剤を追加します。 写真10 ブリングで死んだシロアリの死骸

E)60日目撤去

 シロアリの死滅を確認し(写真10)、ボックスを撤去します。

F)薬剤散布

 加害していた白蟻の巣は壊滅しましたが、新たな白蟻の侵入を防止するため、薬剤による予防処置をお勧めします。薬剤を使いたくない方は、ブリングトラッパー(弊社商品)などで維持管理してください。

7.ベイト剤の必要量

表4 ベイト必要量目安
シロアリの数ベイト剤目安量
40万匹400g
80万匹800g
100万匹1000g
 ブリングベイトの食害量はイエシロアリの巣の大きさに比例します。投与1ヶ月でシロアリは衰弱し、ベイト剤を食べなくなります。ベイト剤の必要量目安は、表4となっており、初回投与量は400gとなっています。点検時に、必要に応じてベイト剤を追加してください。

8.ブリングベイトの施工時期

 ブリングシステムはイエシロアリの活発な活動を利用し、巣を壊滅させます。温度が低いと活動が低下し、喫食量も低下、ベイト工法の効果も低下します。ブリングベイトの施工は、九州で4月下旬から9月末までの着工が望ましいと思われます。10月以降でも巣の壊滅は可能ですが、壊滅までに3ヶ月から4ヶ月と長くなることが予想されます。

9.施工事例

 ブリングシステム施工件数は、弊社が関わった現場だけでも35箇所を越えました。弊社が関わった現場の一覧と代表的な事例を紹介します。

9−1ブリングシステム施工一覧

表5−1 弊社の関わった施工現場一覧
施工時期施工場所施工地域
平成17年10月住宅床下鹿児島市紫原
平成17年10月体育館トイレ鹿児島県
平成17年10月牛舎土間日置市
平成17年09月住宅床下鹿児島市伊敷台
平成17年09月住宅床下鹿児島市名山町
平成17年09月住宅床下鹿児島市喜入町
平成17年09月病院2階病室大分県
平成17年08月給食センター鹿児島県
平成17年08月住宅基礎外鹿児島市武
平成17年07月温泉ロビー指宿市
平成17年07月鉄筋店舗鹿児島市与次郎
平成17年07月庭木鹿児島市新屋敷
平成17年07月温泉樹木A鹿児島市
平成17年07月温泉樹木B鹿児島市
平成17年07月住宅1階天井鹿児島市花野
平成17年07月住宅床下鹿児島市小松原
平成17年07月住宅床下鹿児島市西陵
平成17年07月工場樹木大分県
表5−2 弊社の関わった施工現場一覧
施工時期施工場所施工地域
平成17年07月住宅植木鉢鹿児島市小原町
平成17年07月温泉樹木指宿市
平成17年07月鉄筋店舗鹿児島市
平成17年06月鉄筋アパート階段鹿児島市唐湊
平成17年06月住宅床下鹿児島市中山町
平成17年06月病院建物継手鹿児島市
平成17年06月病院擁壁鹿児島市
平成17年06月病院屋上鹿児島市
平成17年05月鉄筋アパート畳鹿児島市田上
平成17年05月住宅樹木日置市
平成17年04月街路樹鹿児島市
平成17年04月街路樹鹿児島市
平成17年04月住宅床下鹿児島市下福元町
平成17年04月住宅1階天井鹿児島市東坂元
平成16年10月銘木店鹿児島市
平成16年10月住宅樹木鹿児島市伊敷台
平成16年09月公園構造物鹿児島県


9−2床下設置事例

施工期間H17.6.15〜7.30
施工場所鹿児島市木造住宅
写真11 床下の蟻道 施工経過:
 6月15日 床下にイエシロアリの大きな蟻道を確認(写真11)し、蟻道を一部除去し、ボックス誘導部を蟻道に密着設置しました。この現場は14日目の点検ができないため、ボックスを特別に2個設置しました。(通常の現場であれば、ボックス1個の設置で充分です。ボックス2個に、ベイト剤800gを入れ、たっぷりと水を掛けました。
写真12 ブリングボックス2個設置 写真13 ブリングボックス設置状況
 7月22日 ブリングベイトで職蟻が死滅し、水の補給が行われないため、火打土台の蟻土が崩落した(写真14)。ボックスの蓋を開けると、投与したベイト剤800gはほとんどなくなっていました(写真15)。ボックス内には大量の兵蟻がいました(写真16)が、兵蟻は蓋を開けてもボックスの中を逃げ回るだけでボックスからは逃げ出しませんでした。兵蟻が逃げ出さなかったことでブリングベイトによる巣の崩壊が確認されました。
巣の崩壊までのステップは次の通りです。
1)ブリングベイト喫食による職蟻の巣内大量死滅
2)職蟻の死骸から、カビ、アンモニアガスの発生
3)カビ、アンモニアガスの巣内充満
4)兵蟻、巣外への逃避
5)逃避した兵蟻の死滅
写真14 火打土台の蟻土崩落(34日目) 写真15 ベイト剤800gほぼ完食 写真16 大量の兵蟻 写真17 兵蟻死骸拡大
 7月30日 蓋を開けるとシロアリはすべて死滅していました。8日前には動いていた兵蟻もブリングベイトの影響で死滅していました(写真17)。

10.まとめ

 ブリングボックスはボックスの構造で大量のイエシロアリを集めますので、ボックスを何個も設置する必要がありません。イエシロアリの活動が一番活発な場所に1個もしくは2個設置してください。設置1日でシロアリがボックス内に誘導され、ベイト剤の食害が始まります。イエシロアリを見つけたら、被害調査を行い、ブリングボックスを設置し、ブリングベイトでの駆除をお勧めします。

11.謝辞

 ベイト工法の開発を始めて十数年が経過しました。その間、不完全な試作品を現場で使用し、御協力いただきました防除会社の皆様方には大変御迷惑をおかけしました。しかし、その失敗を教訓に、多くの防除会社とメーカーの御協力で、ブリングシステムを開発販売することができました。この場をお借りしまして、御協力いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます。

参考文献

1)山野勝次(1982)イエシロアリの加害習性および物理的防除に関する研究
       鉄道技術研究報告 No.1223,pp41
2)久保田俊一(2004)ベンゾイルフェニルウレア系ビストリフルロンのシロアリに対する基礎効力
       第16回日本環境動物昆虫学会年次大会 B-1